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『玉蘭』 |
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恋人、仕事すべてを捨てて上海に留学した有子の元に、若き日の大伯父が幽霊となって会いに来た。70年前、戦時下の上海で大伯父は一人の女を愛した。時を超えて飢えた魂の孤独を抱えながら生きる男女。 「小説トリッパー」に99年春季号から00年夏季号まで連載。 |
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作者のコメント |
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私の大伯父、萩生質は昭和29年に一通の手紙を残して失踪しました。彼は戦前の上海に住んで、上海・広東間の貨客船に乗っていた船乗りです。その話を元に、現在と過去を交錯させた物語を作ろうと思い立ちました。構想したのはかなり古く、『OUT』を書く前のことです。その時、上海の取材も終えていましたので早く書かなくては、と思っていたのですが、逆に思いが強くて取りかかれませんでした。それで、「小説トリッパー」で1年半連載した小説です。1回に100枚書く、という形式による縛りを、どう使うかと悩みました。結果、主要な登場人物のそれぞれの思いを書くことにしました。 女主人公の有子は複雑な性格です。有子を好きになるか嫌いになるか、でこの小説の好みがはっきりした感がありますね。でも、複雑な分だけ、現代を生きる女性の悩みや苦しみの一端が覗けたのではないかと思うのですが。 苦労したのは、70年前の広東の状況。上海は沢山あるのですけど、広東は全くないのです。広東の租界地である沙面と市街地とを隔たる川で、質と浪子が別れるシーンを書きました。危険な市街地に取り残された浪子の姿が、沙面側にいる質のところから川霧の向こうに見え隠れするという場面です。去年、テレビの仕事で現地に行ったら、川は資料の通りあるのですけど、すごく狭かった。あちゃーと思いました。でも、小説世界はこれでいいのだと自分で勝手に納得しています。 (インタビュー・構成 ミッシー鈴木) |
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テレビドラマ |
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『玉蘭』 2007年(テレビ朝日) 出 演:常磐貴子、筒井道隆、長嶋一茂、浅野温子 |